朝、祖父の元へ行きました。

 昨日よりも心拍数は下がっていて、息は殆どしていませんでした。

それでもまだ、私は祖父に触れるのが怖かった。
 見るだけでこんなに細い体を、掴んだらそれは逃れられない実感として感じられてしまうのが怖かった。


 昔、あんなにもらった恩恵も愛情も優しさも、何一つとして返せない自分が悔しくて悲しくて、嫌だった。


 もう、病室にいることからも逃れたくなっていたので、みんなの朝食の買出し役を買って出ました。

 コンビニで買い物をしていたら電話がかかってきて、
「呼吸がとまりそう」と。

帰ってみたら医者がいて、慎重な面持ちをしていました。

おばあちゃんはおじいちゃんに取りすがってるみたいでした。

 計器の音もしなくて、みんな静まりかえっていました。

呼吸が止まっても、おじいちゃんの心臓はしばらく動いてました。


 動いてたけど、やがて止まりました。


「残念ですが…」時計を見ながら時間を読み上げられると祖母は
「とおちゃん!とおちゃん!」と泣き崩れました。



 その時になって、やっと、意識のあるときに、もっとなにか恩返しができたならと後悔をしました。


 私、夏以来祖父に触れてなかった。もう、手に祖父の暖かさも柔らかさも何も残ってない。

もう、何も残らない。

 後悔しても何もならないのに、どうにも出来ない。




何をしたら贖罪になるんだろう。

わたし、からっぽだ。